「テレビで、歯周病になると糖尿病になると聞いたけど、本当?」
「歯周病になりたくないけど、具体的にどうしたらいいの?」
歯周病は、ただの歯の病気だと考えていませんか?実は、全身の健康に大きな影響を与える可能性がある厄介な病気です。
今回の記事を読めば、歯周病が全身に影響を及ぼすメカニズムや、歯周病を予防する具体的な方法についても解説します。
Contents
歯周病が引き起こす病気
歯周病はただの歯の病気ではありません。全身に悪影響を及ぼし、さまざまな病気のリスクを高めるといわれています。
ここでは、歯周病がどのようにして全身の病気に関連しているのかを解説します。
糖尿病
糖尿病は、インスリンの作用が十分でないためブドウ糖が有効に使われずに、血糖値が普段より高くなっている状態です。
出典:糖尿病ってどんな病気?|日本糖尿病学会
糖尿病は、下記のような合併症が起こります。
- 心臓病
- 失明
- 腎不全
- 足の切断
また、歯周病になると糖尿病が悪化するメカニズムは、下記のとおりです。
歯と歯茎のあいだの「歯周ポケット」から炎症に関連した物質「サイトカイン」が血流に乗り全身に広がります。
- サイトカインが血糖値を下げるインスリンの働きを阻害する
- 血糖値が高いままでコントロールできなくなる
歯周病と糖尿病は互いに悪影響を及ぼしあうことも分かっています。
肥満
肥満と歯周病は互いに影響を及ぼします。歯周病は下記のようなメカニズムで肥満を引き起こすといわれています。
- 口の中の細菌が全身をめぐる
- 細菌が脂肪を代謝しづらくする
- 肥満になる
肥満が歯周病を悪化させるメカニズムは下記のとおりです。
- 脂肪細胞でつくられる炎症に関連した物質「TNF-α」が歯を支える骨をとかす
- 歯周病が悪化する
また、肥満の人は脂肪細胞が多いため「TNF-α」が多く分泌され、歯周病が進行しやすくなります。歯周病とメタボリックシンドロームの関連性も示唆されています。
心臓病や動脈硬化
歯周病は動脈硬化や心疾患を引き起こすともいわれています。
歯周病原因菌の刺激により、動脈硬化を誘導する物質がつくられます。
- 血管内皮に影響し、プラーク(脂肪性沈着物)ができる
- プラークにより血管が狭くなる(詰まりやすくなる)
- 別の部位のプラークがはがれて血栓となり、血管を詰まらせる
上記のようなメカニズムで、心臓に血液を送る血管が狭くなったり、詰まってしまったりして、心筋梗塞や狭心症を起こしてしまうのです。
脳梗塞
脳梗塞は、脳の血管が詰まり、脳細胞が死んでしまう病気です。かつては日本人の死因として1位だった「脳血管疾患(脳卒中)」のうちの1つです。
出典:死因順位(第5位まで)別にみた死亡数・死亡率(人口10万対)の年次推移|厚生労働省
脳梗塞は、動脈硬化や心臓病と同様、歯周病原因菌の刺激によって血栓ができるため起こります。
重度の歯周病の人は、健康な人の2.55倍脳梗塞になりやすいといわれています。血圧やコレステロール、中性脂肪の値が高い人は、歯周病に特に注意が必要です。
出典:Periodontitis is associated with stroke | Journal of Translational Medicine
肺炎・気管支炎
歯周病菌が唾液に入っていると、細菌が気道に入り、気管支炎や誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。
免疫力の低下した高齢者、特に脳血管障害のある人に、誤嚥性肺炎は発症しやすいです。
誤嚥性肺炎の原因の多くは、歯周病原因菌といわれています。誤嚥性肺炎を予防するために、歯周病にならないよう予防しましょう。
早産・低体重児出産
妊娠中は女性ホルモンの関係で、歯肉炎になりやすいです。
また、妊娠している女性が歯周病にかかると、早産や低体重時出産のリスクが上昇します。口の中の歯周病原因菌が血中に入り、胎盤を通して子宮内の胎児に感染する可能性があるからではないかといわれています。
歯周病に罹患している妊婦さんの早期低体重時出産の危険率は、7倍以上です。
生まれてくる赤ちゃんのためにも、妊娠前から歯周病予防につとめましょう。
骨粗しょう症
骨粗しょう症とは、骨がもろくなり骨折しやすくなる病気です。
約90%の患者さんは女性。閉経後骨粗しょう症は、閉経により卵巣機能が低下し、下記のように起こります。
- 骨代謝にかかわるエストロゲン分泌が低下
- 骨がもろくなる(骨粗しょう症)
骨粗しょう症になると、歯を支える骨ももろくなり、歯周病が悪化するのです。
また、歯周病は骨粗しょう症を悪化させます。歯周病で歯を失ったり、歯がぐらぐらしてしっかりかめないようになったりすると、食べ物の消化吸収力が低下して低栄養となるためです。
関節リウマチ
以下のようなメカニズムで、歯周病は関節リウマチを引き起こす可能性があります。
歯周病原因菌のひとつPg菌が、体内のたんぱく質であるアルギニンをシトルリンに変化させます。
- シトルリンを異物として認識し、抗CCP抗体ができる
- 抗CCP抗体により、滑膜に炎症ができて関節リウマチ発症する
また、下記のように関節リウマチの人が歯周病を悪化させることもわかっています。
- 関節リウマチの人が治療薬で免疫力が低下
- 関節リウマチでうまく歯磨きができない
関節リウマチになると「シェーグレン症候群」という合併症になる可能性があります。
- シェーグレン症候群の症状により唾液が減る
- 唾液が減少することで、洗い流されず、口の中の細菌が増える
- 歯周病悪化
このように、歯周病と関節リウマチは互いに悪影響を与えます。
認知症
認知症のうち、67.6%を占めるといわれているのが「アルツハイマー型認知症」です。
発症のメカニズムの一つとして、脳の神経細胞に「アミロイドβ」というタンパク質が異常に沈着し、以下の可能性が考えられています。
- 神経細胞が死ぬ
- 脳が萎縮しアルツハイマー型認知症になる
アミロイドβの沈着が歯周病菌により増加することが、最近のマウスによる研究で報告されました。
ヒトにおいても、歯周病が認知症を引き起こす可能性が考えられます。
そもそも歯周病とは?
歯周病は、私たちの口の中に存在する細菌が原因で起こる病気です。
高齢の人がかかるものと考えがちですが、実は20代、30代から4mm以上の歯周ポケットをもち歯周病にかかっている人もいます。
歯茎が腫れたり、歯がぐらぐらしたりする、ということはご存知の人も多いかもしれません。より詳しく原因や対処法を詳しく知って、歯周病を予防しましょう。
細菌による感染で起こる炎症
歯周病の原因は、口の中の細菌。口の中にはどれぐらいの細菌がいるかご存知でしょうか。
400から700種類の細菌が口の中にいるといわれています。細菌といっても、普段は悪さをしません。
しかし、歯磨きが十分でなかったり、糖分を取りすぎたりすると、細菌は粘着質のある物質をつくり、歯の表面に付着します。これが「歯垢(プラーク)」です。
血管内膜にコレステロールが沈着してできたものも「プラーク」と呼びますが、別物です。
微生物が集まったものを「バイオフィルム」といいます。排水口のぬめりもバイオフィルムですが、歯垢はバイオフィルムの一つです。
歯垢1mgの中には約10億個の細菌がいるといわれており、虫歯や歯周病の原因となります。
歯垢の中の細菌により、歯茎に炎症を起こし、歯を支える骨(歯槽骨)をとかします。
初期段階では自覚症状が少ない
歯周病は初期段階では痛みなどの自覚症状が少ないのが特徴です。
ほとんどの人は歯ぐきから出血しても、それを重大なサインとは考えずに見過ごしてしまいます。すると歯周炎は慢性化するのです。
歯周病が進行しているのにもかかわらず、対処せずに放置しておくと、重度の歯周病になる可能性があります。歯周病は、早期発見、早期治療が非常に重要です。
歯周病を引き起こす主な原因
歯の表面にくっついた歯垢の中の細菌が、歯周病の主な原因となります。具体的なメカニズムは以下のとおりです。
- 歯磨きが不十分な部分に歯垢がくっつく
- 時間経過とともに歯垢の量が増える
- 歯垢の中で酸素を嫌う「嫌気性菌」が増える
- 嫌気性菌が歯茎を攻撃して身体の中に侵入しようとする
- 身体は白血球により菌を攻撃して侵入を阻止しようとする =「歯周病のはじまり」
- 菌が歯周ポケットの中に入り、内毒素(エンドトキシン)を出し歯周組織を破壊
代表的な歯周病の症状
歯周病が進行すると、以下のような症状が現れることがあります。
- 歯茎が赤く腫れている
- 歯茎が下がって歯が長くなった
- 歯磨きのときに出血する
- 口臭がきつくなる
- 歯並びが変わった気がする
- 歯が揺れている
- 歯が浮いたような気がする
これらの症状が見られた場合は、すぐに歯科医院を受診してください。
早めに適切な治療を受けて、歯周病の進行を防ぎ、健康な口内環境を保ちましょう。
歯周病を予防するには
歯周病は多くの全身疾患を引き起こす可能性があるため、予防が非常に重要です。
ここでは、歯周病を予防するための方法をご紹介します。ぜひ今日から実践してくださいね。
正しいセルフケアを徹底する
歯周病の予防において最も重要なのは、日々のセルフケアです。
毎日のブラッシングはもちろん、歯と歯のあいだをフロスや歯間ブラシで清掃しましょう。
歯ブラシだけでは、歯と歯のあいだの汚れは落ちません。少なくとも1日2回、可能であれば毎食後に歯磨きをしてください。
歯磨きの方法を間違ったままでいると、いくら毎日気をつけていても歯周病になる可能性があります。
正しく歯磨きができているか、歯科医院でチェックしてもらいましょう。
歯科医院の定期検診を受ける
ご自身での毎日の歯磨きはとても重要ですが、歯科医院での定期検診も、歯周病予防には不可欠です。
セルフケアのみでは、どうしても歯肉溝の中など磨き残しが出てきます。結果、歯周病の原因となる歯垢ができてしまうのです。
歯科医院で、歯科医師や歯科衛生士により検診だけでなくクリーニングも行いましょう。
特に「歯石」を除去することは、歯周病予防に重要です。歯垢は、時間がたつと歯石となり、歯磨きでは落とせません。歯石は歯周病を悪化させるため、プロに除去してもらうことが必要です。
定期検診の頻度は、口腔の状態によりさまざまですので、ぜひ歯科医院へご相談ください。
生活習慣を改善する
以下のように生活習慣を改善し、歯周病予防につとめましょう。
- バランスのとれた食事
- 禁煙
- 適度な運動
喫煙は、歯周病を悪化させる因子。歯周病にかかる危険性は、以下のように上がるといわれています。
- 1日10本以上の喫煙:5.4倍
- 10年以上の喫煙:4.3倍
- 出典:歯周病と煙草の関係|日本臨床歯周病学会
タバコを吸っていると、歯茎の腫れや出血が見た目には現れにくいため、自分で歯周病に気づきにくくなります。
- タバコの煙に入っている一酸化炭素により、組織へ酸素がいかなくなる
- ニコチンにより、血管を収縮させて酸欠・栄養不足になる
- ヤニが歯の表面につき、ざらざらして歯垢がつきやすくなる
このように、喫煙は歯周病の大敵。ぜひ禁煙し、歯周病トラブルを予防しましょう。
歯周病に関するよくある質問
歯周病は口の中の問題だけではなく、全身に影響を及ぼすことがあります。
歯周病が進行するとどのような症状が現れるのか、また、どのような人が歯周病になりやすいのかを知っておきましょう。
歯周病が手遅れになると現れる症状は?
歯周病が進行し手遅れになると、以下のような症状が現れることがあります。
- 歯茎のキワが赤くなったり、腫れたりする
- 歯茎から膿みが出る
- 歯が揺れる
- 歯が勝手に抜ける
これらの症状は、日常生活に大きく影響します。重症化すると、治療が大変になる場合もあるでしょう。そのため、早期発見・早期治療が非常に重要です。
歯周病になりやすい人の特徴とは?
ご自身が歯周病になりやすいかどうか、気になりますよね。
歯周病になりやすい人の特徴は、以下のとおりです。
- 歯磨きができていない、できない
- 定期的に歯科検診を受けていない
- 糖尿病
- 喫煙している
- 歯ぎしり、食いしばりをする
- 合っていない被せ物や入れ歯
- 不規則な食生活
- ストレス
- 口呼吸する
- 免疫力が低下している
これらの特徴がある人は、できるだけその因子を減らすことが歯周病予防に効果的です。
まとめ
歯周病は早めの対処が重要です。日々の正しい口腔ケアと、定期的な歯科検診によって、歯周病を未然に防ぎましょう。
また、喫煙や不規則な食生活などの生活習慣を見直し、全身の健康を守ることが大切です。
当院では、歯周病予防のため、メンテナンスに力を入れています。歯周病にならないために、またすでに歯周病になっている人は、ぜひご相談ください。