こんにちは。京都府京都市左京区にある医療法人社団 京都下鴨ライフ歯科・矯正歯科・小児歯科です。
虫歯治療の際、虫歯が神経にまで達しており、何もしていなくても痛みが出ている場合、神経を抜くことがあります。神経を抜くかどうかは、自覚症状の有無が重要です。
今回は、虫歯治療で神経を抜くケースと、神経を抜く際の治療の流れについて、詳しく解説します。
Contents
歯の神経の役割
歯の神経は、主に感覚伝達と栄養供給を行っています。
歯の神経は、歯の健康と美しい見た目を維持するために重要な役割を担っているのです。
感覚伝達
歯の神経は、外部からの刺激を感知し、それを脳に伝える役割があります。熱や冷たさ、圧力、痛みなど、さまざまな刺激を感じ取って脳に伝えています。歯の神経によって、食べ物や飲み物の温度・感触が伝えられることで、食事を楽しむことができているのです。
食事は、味だけでなく食感も大切です。歯の神経がなくなると食感が失われるため、今までどおりに食事を楽しめなくなるかもしれません。
また、歯の神経は痛みや違和感も伝達されるため、虫歯や歯周病などの異常が発生した場合、早期に気づくことができます。
神経がない歯の場合は、感覚が失われているため、歯に問題が発生していてもすぐに気づくことができません。進行してから発覚することが多いので、歯の神経を抜いた場合は定期的な通院が非常に重要です。
歯の神経は、痛みなどを伝達することで、病気の早期発見に重要な役割を果たしているといえます。
栄養供給
歯の神経は、歯の細胞に栄養や酸素を運ぶ血管と一緒に働いています。神経と血管は、歯の中心部にある歯髄に存在し、歯全体の健康を維持する役割を担っています。
栄養供給は、歯を強くすることはもちろん、歯の美しさを維持する要素のひとつです。栄養がしっかりと届けられることで、虫歯に強い歯を作ることができ、象牙質に届けられた栄養は歯にツヤを与えます。
歯の神経を抜くと、栄養供給が途絶えるため、歯がもろくなり、茶色っぽく変色します。
虫歯治療で歯の神経を抜くケースとは
虫歯治療で歯の神経を抜くケースは、進行度でいうとC3の状態です。C3では、虫歯が神経にまで達しており、何もしていない状態でも歯に痛みを感じます。
以下、虫歯の進行度別の歯の状態をまとめました。
<虫歯の進行度と歯の状態>
進行度 | 状態 |
---|---|
C1 | エナメル質の虫歯 |
C2 | 象牙質の虫歯 |
C3 | 歯髄(神経)に達した虫歯 |
C4 | 残っている部分が歯根のみの虫歯 |
C2でも自覚症状はありますが、熱いものや冷たいものを摂取したときに歯がしみる程度です。何もしていないときに、痛むことはありません。
C4は、神経が死んでいるため痛みを感じない状態です。C4まで虫歯が進行すると、抜歯が必要になることが多いです。
歯の神経を抜くと起こり得るリスク
歯の神経を抜くと、感覚伝達や栄養供給の働きが失われてしまうため、さまざまなリスクが発生します。
歯がもろくなる
歯の神経を抜くと、栄養供給が途絶えるため、歯が弱くなります。歯が弱くなると、少しの刺激で折れたり、ヒビが入ったりするようになるでしょう。
歯が破損するリスクを軽減するために、根管治療後に被せ物や詰め物で歯を補強することが推奨されています。
歯が変色する
歯の神経を抜くと、歯の色やツヤに影響する象牙質に栄養が送られなくなります。神経を抜いた歯は、ツヤを失い、徐々に茶色く変色していきます。
歯は、人に与える印象に大きく影響します。歯が乾燥し、茶色く変色していると、よい印象を与えることは難しいでしょう。
虫歯の進行が早くなる
神経は歯に栄養を与えることで、歯を強くします。
神経を抜くと、歯に栄養が送られず、細菌への抵抗力が弱くなるため、虫歯の進行が早くなるでしょう。
歯の異常に気づきにくくなる
歯の神経を抜くと、歯に異常が起きていても違和感や痛みを感じることができません。
症状が進行していても気づくまでに時間がかかるため、悪化してから発覚することもあり得るでしょう。
噛み合わせが悪くなる
根管治療後に詰め物や被せ物を装着しますが、噛み合わせに影響する可能性があります。
噛み合わせは、年齢を重ねるとともに変化していきます。ほかの歯がすり減ることで、詰め物や被せ物を装着した部分が突出し、噛み合わせが悪くなることがあるのでしょう。
歯の神経を抜く治療の流れ
歯の神経を抜く治療は、一般的に根管治療とよばれます。
以下、根管治療の基本的な流れをご説明します。
診断
歯の状態や症状を確認し、根管治療が適切な治療方法であるかどうかの判断をします。
歯の状態によっては、レントゲン撮影を行い、歯の神経や歯根の状態を詳しく調べます。
麻酔
局所麻酔を行い、治療中の痛みを最小限に抑えます。
痛みを感じる場合は、すぐに歯科医師に伝えましょう。
穴あけ
歯の表面を削り、歯の神経(歯髄)を除去するための穴をあけます。
神経除去
歯の神経と周囲の感染組織を取り除きます。
特殊な器具や薬剤を使用して、根管の内部を洗浄します。
根管拡張
根管に薬剤をすき間なく詰めるために、器具を用いて根管を広げます。
根管を広げ、形を整えることで、薬剤の密着性を高めることが重要です。
根管充填
感染の再発を防ぐため、根管内に特殊な薬剤(ガッタパーチャ)を詰めて密封します。
歯の内部を保護することも、薬剤の役割のひとつです。
仮詰め
根管治療が完了したら、歯の上部に仮の詰め物を入れます。
詰め物や被せ物は、数日間で作成され、装着します。
詰め物や被せ物の装着
根管治療が成功し、感染がおさまったことが確認されたら、詰め物や被せ物を装着されるでしょう。
人工歯を装着することで、歯の強度と機能が回復し、しっかりと噛むことができるようになります。
神経を抜くと歯の寿命が短くなる?
「神経を抜くと、歯の寿命は短くなる」といわれているのはご存じでしょうか。
神経を抜くと、歯は本来の寿命より10年ほど短くなり、生存期間は平均で5〜30年ほどといわれています。理由は、神経を抜くと歯に栄養が供給されなくなるためです。
栄養が供給されない歯は、どんどんもろくなり、少しの刺激で割れることがあります。また、神経を抜いた歯が虫歯になった場合、痛みに気づきにくいです。定期的に通院していないと早期発見が難しいため、発覚したときには進行していることが多いです。重度の虫歯の場合、抜歯しなければならない可能性もあります。
神経を抜いた歯を長持ちさせるには?
神経を抜いた歯を長持ちさせるには、細菌に感染させないことが重要です。日頃から丁寧に歯磨きをして、定期的にクリーニングを受けましょう。
丁寧に歯磨きをする
神経を抜いた歯は、弱くなっているだけでなく、虫歯になっても気づきにくいです。虫歯のリスクを減らすため、日頃から丁寧に歯磨きを行うことが大切です。
できれば毎食後と就寝前に歯を磨きましょう。いくら時間をかけても、丁寧に磨いていなければ汚れを十分に取り除くことができません。適度な力で小刻みに歯ブラシを動かして磨きましょう。強い力で磨くと、歯茎を傷つけてしまう可能性があります。
また、歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスの使用も効果的です。歯間の汚れは、歯ブラシだけでは除去することができません。最低でも1日1回は使用して、食べかすやプラークを落としましょう。
定期的にクリーニングを受ける
歯科医院で行われるクリーニングは、歯磨きだけでは落とせないような汚れも除去できます。通院頻度は3〜6か月に1回を目安に、定期的にクリーニングを受けましょう。
万が一、神経を抜いた歯に問題が発生しても、定期的に通院していれば早期に発見することができます。悪化する前に治療ができるため、予後が悪くなるリスクを防ぐことができるでしょう。
MTAセメントを使用した歯の神経の保存療法
歯の神経を抜くと、虫歯などのさまざまなリスクがあるため、可能であれば神経を残すことが望ましいです。
現在、注目を集めている、MTAセメントを使用した歯の神経の保存療法について、詳しく解説します。
MTAセメントとは
MTAセメントとは「Mineral Trioxide Aggregate」の略称で、歯科用の水硬性セメントのことです。1993年にアメリカ合衆国で開発され、2007年から日本国内で取り扱われるようになりました。水硬性セメントの主な成分は、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、酸化ビスマス、石膏などで、水分が多い口腔内でもしっかりと固まることが特徴です。
虫歯によって露出した神経をMTAセメントで覆うことで、殺菌して再感染を防ぎます。MTAセメントは抗菌性が高いため、虫歯菌の活性化を抑え、高い封鎖性によって再感染を防ぐ効果があります。
MTAセメントのメリット
MTAセメントのメリットは、抗菌性や封鎖性、生体親和性が高いことです。結果的に治療回数を減らし、歯の寿命をのばすことにつながります。
殺菌効果が高い
MTAセメントは、pH12の強アルカリ性で、非常に強い殺菌作用があります。一般的な細菌はpH9.5ほどで死滅するといわれているので、MTAセメントはほぼすべての菌を死滅させることができます。
膨張によりすき間を埋める
MTAセメントは、硬化するときに膨張します。膨張した際に管の中のすき間を防ぐため、細菌の侵入を予防する効果があります。
生体親和性が高い
MTAセメントは生体親和性が高い成分で構成されています。そのため、体内に長期間入っていても健康被害のリスクが低いといわれています。
歯の削る量を減らすことができる
歯は、削るほど弱くなります。歯を削る量が多いと寿命を縮めかねません。虫歯治療で被せ物を使用する場合、形を作るために歯を大きく削る必要があります。
しかし、MTAセメントによる保存療法なら、多くの歯を残すことができます。
歯の寿命をのばせる可能性がある
神経を残すことは、虫歯や歯根が破損するリスクを低減させます。MTAセメントによる保存療法は、結果的に歯の寿命をのばすことにつながるでしょう。
MTAセメントのデメリット
MTAセメントのデメリットは、適応できない症例があることです。自費診療のため、費用が高いこともデメリットといえるでしょう。
以下、それぞれ解説します。
費用が高い
MTAセメントは自費診療のため、費用が高額な場合が多いです。費用は、約20,000〜30,000円で、詰め物や被せ物の費用は別途必要です。
ただし、再感染して何度も治療を行うことになる場合を考えると、結果的に治療費を抑えられる可能性があります。
適応症例が限られている
自覚症状がある場合やすでに神経が死んでしまっている場合は、MTAセメントが適応できないことが多いです。
治療後しみる場合がある
治療後は神経が過敏になっている場合があるので、熱いものや冷たいものを摂取したときにしみることがあります。
しかし、治療に伴う神経過敏は一過性の場合が多いです。
まとめ
虫歯治療で神経を抜くケースは、何もしてないのに歯が痛む場合です。神経を抜くと感覚が失われてしまうため、虫歯が悪化しやすいうえ、虫歯に気づきにくくなります。ほかにも、見た目が悪くなる、噛み合わせが悪くなるなど、さまざまなリスクがあります。歯の寿命をのばすためには、神経を残すことが大切です。
MTAセメントを使用した歯の神経の保存療法は、水分の多い口腔内でも高いパフォーマンスを発揮する治療法です。適応症例が限られており自費診療ですが、神経を残せるため長期的に見てもメリットが大きいといえます。気になる方は一度、歯科医師に相談するとよいでしょう。
虫歯の治療を検討されている方は、京都府京都市左京区にある医療法人社団 京都下鴨ライフ歯科・矯正歯科・小児歯科にご相談ください。
奥村 亮司